プールサイドヒーローズ/藍坊主
俺には幼馴染がいた。
近所に住んでいて、同じ班として一緒に登校していた子で、そいつはいつでも俺の前にいて、手を引いて歩くような男だった。
運動神経が良くて、ゲームも強い。普段は誰よりもおちゃらけているけど、妙なリーダーシップみたいな物があって、アイツはいつだってクラスの中心にいた。
俺はそいつの後ろを良く歩いてた。
特に泳ぐのがめっちゃ早くて、クラスリレーのアンカーになった時は隣のクラスの奴を突き放して優勝を決めた時は誰よりも輝いていた。
中学も高校も一緒でアイツは水泳部に入った。
そしたらメキメキと実力を発揮して、全国大会に行くとか、インハイに出るとかそんな話が出るくらいになって...
対して俺は新しく始めたバドミントン部で補欠。
もう一緒に連むとか違うとか思ってたんだけど、
それでもアイツは相変わらず俺と仲良くしてくれた。
部活帰りにカラオケに寄ったり、コンビニで駄弁ったり、ラーメン一緒に食いに行ったり、テスト勉強サボって海見に行ったり、休みが合ったら街に映画見に行ったりと色々した覚えがある。その時も相変わらず、ずっと俺を誘ってさ...そんなアイツから教わったバンドが藍坊主ってバンドでさ。
そもそもロック自体もアイツが先にハマって、アジカンとかBUMPとか色々教えてくれてな...
そんな時に「めっちゃ良い曲みっけたから!!」ってYoutubeのURLをメールで送ってもらったのが最初で...........................
※上記の思い出は全て存在しない記憶である。
そんな存在しない記憶が溢れ出す曲、
それが今回のタイトルに入れた藍坊主の新曲「プールサイドヒーローズ」である
藍坊主は神奈川県小田原市出身のロックバンドで、爽やかで真っ直ぐと心刺すような歌詞を書いてくれる、高校時代から好きなバンドだ。
そんな彼らの近年の作品は特にヤバい。
それを理解する為には前作シングルの「夏の金網」をまず聴いて欲しい。
「なんか全部経験した事あるよね?」
そんなノスタルジーを強く俺は感じた。
特に「吹奏楽が金網から、風に変わるように」と言う歌詞で俺は高校時代にクソ暑かった体育館で部活の練習してて、その休憩中に、ふと遠くから聞こえた吹奏楽部の練習の音を思い出して、膝から崩れた。確かファだった気がする。多分チューバのファだ。
元から歌詞の良さが光るバンドだったが、近年は特にリアリティがより強くなり、それに付随して、どこかノスタルジーやセンチメンタルになるような物が増えた。
そんな彼らの新曲が夏を過ぎて、もう冬の影が見え隠れする2022年10月にリリースされた。
それが「プールサイドヒーローズ」だった。
さて、改めて聴くと、前回以上の生感のある比喩が多様され、それがどこか五感で感じた「記憶」と直結する。
「カレーライスと塩素」とか「パラソルの影」とか「歯型のビート板」とか、視覚や聴覚だけで無く、嗅覚や味覚、体感での思い出も思い出されるフレーズが多様され、
その記憶を司る歌詞の中に「本来存在していない“君”」が見え隠れする。
結果、俺は存在しない「君」を幻視し、最終的に「存在しない記憶」が俺の中に溢れ出した。
総評
「共感できる」みたいな曲評をたまに見かけるが、そんな曲の代表でも、会いたくて震える奴なんて誰もいなかったはず。いたらヤバすぎる。
それに対してこの曲では、塩素の匂いとカレーライスの匂いを一緒に嗅いだ事があるし、歯型のついたビート板を見た事あるし、破れた金網に垂れた水泳帽も見た事がある。
そして、その記憶の先にいる「ヒーローみたいな君」がいる。
存在しないはずなのに、それを知っている。
「嘘じゃない!!俺はアイツを知っている!!!名前!?名前は...名前は....」
そう脳内で記憶とバトルした俺は、来年の夏の終わりくらいに再度、「プールサイドヒーローズ」を聴こう思った。
最後に一言...僕は狂ってなどいない!!!
要訳すると「ZORN ミニアルバム「925」収録曲「LOST」を聴いて欲しい」って話
Zornの今一番新しいミニアルバム「925」で一番好きだった曲がMVになってた。
葛飾区は自殺の名所、新小岩をホームタウンとする彼は、ラッパーに良くある複雑な家庭環境で育ち、10代には少年院に入るなど、ある意味ラッパーらしい時間を過ごす。
その後、ZONE THE DARKNESS名義で働きながらMCバトル大会にも出ながら曲を書き続ける。
その時に書かれたのが「奮エテ眠レ」
そのリリックは固く韻を踏みながらも熱を帯び、内向的で鬱々とした感情を吐露するような、リリックに胸が奮えた。
その後「ロンリー論理」「Dark Side」などの名盤をリリースした後、
般若とSHINGO☆西成の東西を代表するMC2人に続き第三の男として昭和レコードに移る。
そこで書かれたのは、家庭を持ち、ある程度名が売れて来た当時も働きながら曲を書く自らをリリックに落とし込んだ「My Life」。
複雑な家庭と不良少年だった彼には遠すぎた“普通の生活”を手に入れ、その何気ない日々を綴った名曲であった。
その後、段々と知名度は上がり、ヒップホップ好きには知れたアーティストとなり、NORIKIYO、AKLOなどといった有名なMC達とコラボしたりと精力的に活動していく。
そして、2019年に昭和レコード脱退、その後地元の仲間達とレーベルを立ち上げ翌年に武道館ライブも成功させ、その後出した「新小岩」でKREVA、MACCHO、ANARCHY、ILL-BOSSTINOなど名だたるMC達とコラボし、今年に入り、横アリでのライブも決定。
順風満帆、成功したアーティストの1人となった彼の新しい曲の詰まったミニアルバムの一発目の曲。
そこに書かれていたのは「成功の喜び」ではなく「成功によって大切な物が溢れ落ちそうになっている様子」だった。
たったの1分55秒、その中に詰まっている彼の生々しい「痛み」。
そしてそれでも「曲を書き続けたいという情熱」
その二つが短い時間に詰まっている名曲だと俺は感じた。
もしよろしければ皆さまも一回聴いていただきたい。
そして感じていただきたい。
元不良少年で職人で夫で三児の父親でラッパーである今の彼の痛みの作文を。
【アルバム紹介】FACT:FACT
唐突だけどアルバムを紹介しようかなと思う。
理由は特にないのだが、あえて言えば「クソほど様々なジャンルのアルバム持ってるのに、それを紹介しないのは勿体無いな」などとぼんやりと思ったからである。
人と人の距離がエゲツなく近くなったこのご時世に「好きな物を人に教えられない」というのは勿体無い。
そんでもって何か人の心に残したい。
そんな気持ちで筆を取ろうと思った次第である。
そんな訳で、第一回は自分の人生を一変させたアルバムを紹介したい。
高校の頃に出会い、初めて聴いた英語詞の曲であり、初めて買ったCDであり、俺の音楽趣味の基礎を作り、音楽における性癖「シンガロング」のカッコよさを教えてくれて...言っていけばキリが無いくらいに思い出が詰まっているバンドFACTのメジャー1st アルバム「FACT」を。
コレとの出会いは当時こうなると思ってなかったYoutube。
周囲の人間がニコニコ動画のネタで笑い、ボカロを聴き、イケてる奴らはなんかよくわからんミックスCD的な何かを焼き増しした物を掛けて、湘南乃風や三木道三でイキっていたが、
私は何をトチ狂ったのか、このYouTubeで音楽をdigる事を覚えてしまっていた。
MVとか色々出てたし、それを見ながら関連に出てくるオススメを聞き続けれる。そうやって気に入った物を数少ない小遣いでレンタルしてウォークマンに入れる。
「俺はお前らが聴かない音楽聴いてんだぜ」的な気持ちで入れる。
そんな周囲の何処にも馴染めないやり方でイキっていた私の彼らとの出会いもYouTubeの中だった。
(私の人生を変えた一曲)
衝撃はまるで頭をバットでぶん殴られたくらい凄かった。
まず格好がエゲツなくカッコいい。
黒服に能面って...斬新な組み合わせ...そもそもの黒服のカッコよさに顔が見えない秘匿性の高さが科学反応を起こし、高2病真っ只中だった私のハートをブチ抜いた。
いや今もこのスタイル最高だが??????
次に来たのは曲のカッコ良さ。
超攻撃的なギター、手数が多過ぎるくらいのエゲツないドラム、そして全編英語詞を綺麗に歌うボーカル。
それを聴いた私は「なんだコレ????カッコ良さの塊かよ????」そう思った訳だ。
その「曲の意味全然分かんないけど心はカッコ良さを理解した」そんな感じに近い。
その後は数日間同じ曲をリピートし続け、最後に親の買い物でFxxknクソ田舎からCDショップがある街に出るタイミングを見計らい、無理矢理着いて行って、そそくさとCDコーナーで探し、買ったCDが「FACT」だった。
そしてこのCDが私の原点であり、今の音楽ライフのコアになると自分でも思っていなかった。
長い自分語りはこれくらいにして、アルバムの曲の話をしよう。
FACTというバンドはおおよそ「ポストハードコア」という曖昧なジャンルのバンドだが、このアルバムはその「曖昧さ」をある意味体現していると言える。
イントロ代わりの一曲目である「paradox」は初手でエレクトリックなサウンドからメタリックなギターリフが飛び出す一曲だし、
二曲目の「los angels」はパンクス的なBPMから一気に曲が転調し、それを何度も繰り返す。
「a fact of life」の次に来る「chain」は完全にメロディックハードコアだし、
「lights of vail」はジャンルとしてはエモ的な側面が前面に出てて、
「merry chrismas mr lawrenc」はエレクトロ、ピアノサウンドも交えたパンクとオルタナのクロスオーバー的的な仕上がり
「45days」でアコースティックで優しいメロディと歌声を響かせたと思えば
「why...」でメタリックなリフと刻みとエゲツないドラムに戻ったり、
そのまま「1-2」でハードコアテクノ的な曲が始まり、
最後はエゲツない速さとシンガロングで最後を締めるに相応しい「rise」で締める。
もう過剰なほど書いたが、ジャンルがめちゃくちゃなのだ。
「これだ!」というジャンルは無いが、根底にあるのは「メロディックハードコア」の速さと激しさ。
それをeijiという頭のおかしいくらい手数があるドラマーのメロデスみたいなドラミングで包むというそりゃジャンルがぶっ飛ぶわってなるような仕上がりになっている。
正直音楽はニワカもいい所なので、演奏がどうとか結構適当などころがあるし、ジャンルも正直何がどうとか感覚で物を言っている節があるし、英語も今も苦手な言語故にフィーリングの良し悪ししかわからない所はあるが
これだけは確実に自信を持って言える。
「多分一生コレと同じ音楽性を持ったバンドは出てこない」
唯一無二のサウンドを持ったFACTのメジャー1stアルバム、
買えとまでは言わないので、もし良かったら「a fact of life」だけでも聴いて見てはいがかでしょうか?
オタク的音楽講座 1【エモは死んだ?それは本当かい?】
最近、よく巷で「エモい」なんて言葉が定着しており、多くの人がその出所や意味を知らずに使ってるかと思う。
そもそもこの言葉はパンクロックから派生した「エモ」というジャンルから来ており、
要は、情緒的だったり感情を強く揺さぶるような音楽に対して、「エモい」って日本のバンドキッズ達が言ってた訳なんだけど(自分も結構早くから使ってた覚えがあったよ!)
それが、いつの間にか、何の因果かで世間一般に伝わっていき、
いつのまにか定着してしまった。
結果、今となってはバンドキッズ以外もエモいエモいと言い始め、オタク、パンピー、その他諸々全てが語彙力を消失してしまった。
世はまさに、大エモ時代。もしくは一億総語彙消失時代。
なんて時代だ。
てな事をぼんやりと考えてたら、改めて「じゃあエモってなーにー?」ってのと「最近エモ見ないね〜」ってのをつらつら書こう!って思ったのが、今回のこの記事に当たる。
それで、その語源となった音楽であるが、
1990年後半から2000年前半の間にアメリカやイギリスで若者を中心に流行ったパンクロックのジャンルだ。
その特徴は社会的ではなく、個人に向けたメッセージ性なんかが強く、ボーカルの柔らかい歌声や感情的な叫びに、ポップでどこかメロディアスなサウンドが乗っかる曲調で、
従来のパンクロックにある「尖り」「泥臭さ」「不良感」というよりも「綺麗」「切なさ」「センチメンタル」が前面に押し出された音楽だ!
と僕は勝手に思っている。(別に僕は音楽の専門家では無く、好きなだけだから、その辺は結構フィーリング&アバウト。なので、我こそは詳しいって人は居たら教えて欲しい)
そんな楽曲だからか、その時代に生きていた若者達に多く支持された。
世界は様々な社会の不安、閉塞感、危機感に包まれていた。
テロ、貧困、家庭内暴力やイジメ、精神の悩みやジェンダーの悩み、他にも上げればきりが無いほどある。
そんな世界に対して希望が見出せなくて、
でもそれを誰かにぶつけたり「誰かのせいだ!」と怒ったり、喚いたりする事も出来ず、吐き出したいけど吐き出せ無くて、
誰しもが悩みを抱えて、それを心の内側に隠して死にたいけど生きている。
そんなユメもキボーもありゃしない世代の若者達の内なる漠然とした不満感、不安感、閉塞感、危機感を叫ぶ音楽が「エモ」だった。
多分、20台後半から30台後半くらいまでは思春期真っ只中にぶつけられて、なんか良くわかんないけど、凄え刺さる音楽に興奮し、それを表現しきれず「エモい...」と呟いた方も多いだろう。
それではいくつか曲紹介
My Chemical Romance 「Welcome To The Black Parade」
エモと言えば!とまず名前が上がる一曲。
VoのGerard Wayは元々漫画家・イラストレイター・アニメーターで、スパイダーマンスパイダーバースで話題になったペニー・パーカーの産みの親だったり、ドラマ化されたアンブレラファミリーの作者だったりする。
(可愛い)
ゆっくりとしたピアノのイントロから入り、パンクらしい疾走感のあるサビで叫ぶように歌う歌詞が特徴的。
今聴いてもエモい。
Panic! At The Disco「I Write Sins Not Tragedies」
こちらもエモと言えば!で上がる一曲。
現在P!ATDのメンバーはVoのBrendon Urieのみ。だが、現在もP!ATDとして活動しており、最近は映画に楽曲提供してたりと、精力的に活動してる。
(一番有名だと思うのはグレーテストショーマンの「The greatest Show」。実はこれもP!ATDが曲提供してる)
今でこそ、ポップロックミュージックのスーパースターだが、最初はゴシックエモのバンドとしてデビューしており、どっちがいいかと言われれば迷う。
他にもあるけど、とりあえずこの二つをご紹介。
自分のイメージする「王道のエモ」がこれだった、このチョイス。
「いや、こっちの方が!」ってのは心に秘めて欲しい。
余談だけど、他所で「弱虫の音楽」なんて言葉を見かけたけど、まあ結構そうだなって、それなりに好きな僕も納得した。
ハードコアやメタルほど攻撃的じゃないし、かと言って明るく元気に!な歌でもない。メッセージが女々しいとか言われたら、それまでなので、そう思えるのも致し方無しかなと。
さて、エモの特徴と大まかに「こういう感じだよ」ってのを伝えたところで、本題。
そしてタイトルにもある通り「エモは死んだ?それは本当かい?」って話。
そもそもこんな事誰も言ってないのだけれど、良く考えたら「こういう音楽が減った」もしくは「メインシーンから外れた」という印象はある。
実際、EDMミュージックの台頭と90年台リバイバルブームの波でヒップホップが現在の洋楽メジャーシーンの花形となっていて、
メインから外れたインディーズやサブカルチャーやアンダーグランドでもハードコアやメタル、パンクなどの要は「多くのファンを確立しているジャンル」の他に、ポストハードコアやメタルコア、ポップパンク、メロディックハードコアなどの派生ジャンルが現在の主流となっている。
日本でも、メジャー所はアイドルなどが席巻。
そこに近年は俗に言うロキノン系の今までテレビ出演とかせずライブとかラジオで良く聞いたロックバンドみたいなのや、声優やボカロなどのアニメシーン側の音楽がメインの脇を飾るような感じ。
インディーズ単位でも主流はオシャンティなロキノン系かライブでブチ上がれるラウド系、メロコア系。
そこにヒップホップやジャニーズやエグザエルやAKBとは違うアイドルが加わるような印象を受けている。
ファッションという観点から見ても、アイマスの白坂小梅みたいな、前髪で目を隠したり出来るくらい長くて、ピアスとかタトゥーをバチバチにキメて、中性的な印象を受ける、俗に言う「エモボーイ/エモガール」みたいなのはめっきり見なくなったし、ツーブロックやパーマで小綺麗になったバンドマンが増えた気もする。
(可愛い)
そんな訳で「バカめ!エモって奴は死んだ!もう居ない!」って思ってしまった訳ですが、
果たしてそうなのか?
実は違う。
死んだのでは無く、「多くの音楽に取り込まれて、広まった」のである。
今のURLはFit For A Kingというメタルコアバンドの最新アルバム“Dark Skies”に収録されている「Oblivion」という楽曲なのだが、
ゆったりとしたイントロから、疾走感のあるメロ、そしてシャウトやデスボイスとは違う叙情的な歌声のサビ。
さっきも似た構成の曲上げてたよね?
つまりは、こういう「エモと違うジャンルに大きく影響を与え、違うジャンルの中で今も残っている」のである。
特にメタルコア系において、この流れは顕著で、このバンド以外にも見られ、シーンに大きく影響を与えている。
また、このエモという概念を感じ取る人が多くなったというのも大きい。
最初に言ったが、今までは一部のバンドファンや洋楽ファンが言ってる概念だったが、今となっては様々なジャンルでそれを何処と無く理解する人が増えた。
だから、曲調が違っても、歌詞や歌い方などでこちらが勝手に感じ取れる様になり、多くのアーティストにエモを感じ取れるようになった。
けど、日本語にはそれを端的に短く言い表せる言葉が無い。だから「エモい」って言葉が広がった。
のかなと僕は考える。
話の最後に。
近年になり多くの音楽が様々な手段で手に入るようになった。
違法だが無料でダウンロードは可能だし、Youtubeとかでだけ聴く事も出来る。
別に音楽を買う必要性は薄くなったのかもしれない。適当に無料で消費して、飽きたら飽きたで捨ててしまって、そういうのも一つのスタンスなのかも知れない。
でも、そんな時代だからこそ、
心にガツンと響いて、鳥肌が立つエモい曲に出会えるのは幸せな事だと思う。
だからこそ、そんな「エモい曲」に出会ったら、どうか正規の方法で応援して欲しい。
買わなくても、今はストリーミングサービスがあって、アーティストに還元される仕組みになっている。月額数百円でも、お小遣いの範囲でどうにかなる値段の所もある。
そうやって、みんなが正規の方法でアーティスト達を応援すれば、新しいエモい曲が生まれるかも知れないのだから。
Trust Me
アイドルマスターと聞いて思い浮かべる曲と言えば
「READY!!」だったり、
「お願いシンデレラ」だったり
「Brand New Theatre」だったり
「Reason!!」だったり
王道な物を思い浮かべるかもしれません。
もしくは、誰かの担当であれば、
その担当の歌う曲を思い浮かべる人も多いとは思います。
そんな中で私が紹介したい曲は、
アイドルマスターシンデレラガールズの「Trust Me」という、多分この記事が出ている頃はシンデレラガールズの中で一番新しい楽曲です。
まずこの曲が「アイドルマスターシンデレラガールズの中でどう言った理由で登場したか?」について。
アイドルマスターシンデレラガールズには「シンデレラガール総選挙」というイベントが存在します。
某48みたいなアイドル同士の人気投票を行うイベントであり、その中で「シンデレラガール」という称号を競い合うのですが、
この曲は言わば「その総選挙で属性上位になった9人のアイドルが歌える曲」であり、イメージとしては「恋するフォーチュンクッキー」に近い立ち位置にある曲だと言えると思います。
しかし、この曲はそんな「みんなで踊れる楽しい曲」や、最初に上げた「アイドルマスターの王道曲」からは遠く離れた曲に仕上がっています。
いきなり始まるのはエレクトロのイントロ。
だんだんとゲインが焦らすように上がり始め、期待感が最高潮に達した時、まず耳に入るのは暴れ倒すドラムとベースのサウンド。
荒れ狂うギターリフとエレクトロのイントロを抜け、曲が始まると強い言葉で彩られたラップ調の歌詞。
ヘヴィでラウドでメタリックなポストハードコア・ラップコア・ニューメタルと言って良いこの一曲に「アイドルらしさ」は皆無であり、インスト版に至っては、私の感想は「ただの僕の普段聴いてるバンドやん」でした。
こんなアイドルらしさの欠片も無い曲の作詞、作曲、編曲したのは「ゆよゆっぺ」先生です。
元々はボーカロイドで曲を作っていたボカロPの出身で、
それをきっかけにセルフカバー(歌ってみた)やバンド活動を経て、現在はDJ活動や作詞作曲をやっているアーティストさんです。
シンデレラで特にウサミンこと安部菜々のPやシュガーハートこと佐藤心のPには聞き覚えがあると思いますが、『ヤレんのかオマエら!!』『イケんのかオマエら!!』と客煽りをする事でお馴染みの「凸凹スピードスター」での作詞作曲を行なっており、そこで見た事があると思います。
しかし、きっと思うでしょう。
「凸凹スピードスターの感じと全く違う」と。
「凸凹スピードスター」の曲は確かに音圧強めではありましたが、範疇としてはエレクトロポップ、アイドルソングの範疇に収まった、ちょっと電波で癖になる、安部菜々、佐藤心の二人らしい一曲になっていました。
しかし、コレから「Trust Me」に至るイメージまでは湧かないでしょう。
しかし、ゆよゆっぺ先生を知っていた人からすればTrust Meの方が「普段のゆっぺじゃん」と言う事でしょう。
と言うわけで、少しだけ「ゆよゆっぺ先生がどんな曲を作っていたか?」と言う参考動画です。
「Story of Hope」
「What is Liberty to You」
ゆよゆっぺ先生がボーカルを務めてた「My Eggplant Died Yesterday」の曲。
「Reon-Remind」
如何でしたでしょうか?
ゆよゆっぺ先生を知っている知人に「凸凹スピードスターの方が無理してる」とまで言われる始末。
この「ゴリゴリなサウンドにエレクトロを乗せたポストハードコア、エレクトロニコア、トランスコア」がゆよゆっぺ先生の本来の持ち味であり、曲調だと自分も思っています。
そうなってくると、こんな疑問が湧いてくるかも知れません。
「何故、今の時期にアイドルらしさ、アイドルマスターらしさの欠片も無い曲が、そっちを作れる作曲家を採用してまで、イベントのご褒美とも言える楽曲に使用されたか?」
この部分を語るには二つの面があると私は考えています。
“シンデレラガールズの内側の面”と“アイマスでは無い外側の面”です。
シンデレラガールズの内側の面ですが、
まずこの曲が出る少し前に「ガールズ イン ザ フロンティア」と言う楽曲があり、カッコいい曲調と強気な歌詞で話題となりました。
その中でこんな歌詞があります。
「自分の足で歩けシンデレラ」
正直な所、この歌詞を聞いた時、「なんだこの歌詞」と思いました。
アイドルマスターは、「アイドルを自分の手で育てる」のがコンセプトであり、「二人三脚でトップを目指して行くゲーム」なのに、一人で行けとは随分と...と、私は感じました。
しかし、先日のナゴヤドーム公演を見て、その意味が少しだけわかったような気がしました。
「このゲームはもう成熟している所まで来ているのかな?」と。
実際、ナゴヤドームを二日間を成功させ、
楽曲も100曲がオリコントップ10に入る結果を出し続け、
話題性と言う意味でもライブ後にツイッターのトレンド全てを席巻し、
名実共に、アイドルマスターシンデレラガールズと言うコンテンツは「有名なコンテンツ」だと言えるでしょう。
最低でも「中居くんやゆずがCMやってたゲーム」くらいの認識はされていると思っております。
そんな中で、「ガールズ イン ザ フロンティア」、並び「Trust Me」には、「7周年から8周年、そしてその先に対する決意」みたいな物があるのではないでしょうか?
守るべきは過去じゃない=私達は先の未来を見ている。
そして Trust Me=私達を信じて着いて来て欲しい。
そんなメッセージがもしかしたらあるからこその強気な楽曲だったのかも知れません。
そしてもう一つの面、「アイマスではない外側の面」ですが、
ここに関しては、あくまで私の考えではありますが、
「近年の若者の流行」と「BABYMETALの成功」があるのではないかと私は考えています。
まず流行に関して、
数年前から邦楽の界隈では「ロックミュージック」が名前を残すようになって来ました。
アジアンカンフージェネレーション、サカナクション、RADWIMPS、[Alexandros]、Bump Of Chickenなど、そう言ったバンドの名前がテレビでも上がる事が多くなりました。
その中でも特に成長目覚ましいジャンルが「ラウドロック」「メタル系音楽」のジャンルです。
RIZE、Dragon Ash、Pay Money To My Pain、FACT、そしてONE OK ROCKから始まったこの流れは、80年代のブルーハーツ、90年代のHi-STANDARD、00年代のELLEGARDENが出て来た時のように、新しい“若者達のスター”を生み出しました。
中には海外のレコード会社やレーベルと契約を果たしたバンドや海外でライブツアーを行ったバンドも多く、
イベント等でもオズフェス、スクリームアウト、ノットフェス、そしてワープドジャパン等の海外アーティストを呼べるイベントも出来るレベルにまで成長を果たしております。
そして、その流れの中で「大成功したアイドル」がBABYMETALです。
日本のアイドルとメタルを組み合わせたこのユニットは今や母体となったアイドルグループよりも大きくなり、海外の大型メタルフェスやロックフェスで厳つい海外のメタラー兄貴達をヒーヒー言わせ、大物メタルアーティストにも絶賛されるムーブメントを巻き起こしています。
BABYMETAL : Distortion
そして、この流れが現実のアイドル、そしてアイドルゲームにも流れて来ていると私は感じています。
実際、近年になってドラムやベースの音がやけにしっかりしたアイドルを見かける事が多くなりました。
最近だとPassCord辺りが様々なロックイベントを荒らし回っていると噂で聞いています。
さらにアイドルゲームコンテンツでも、
ラブライブでは「既存楽曲のメタルアレンジ楽曲」が存在していたり、
ナナシスでは「アイドルゲームなのにバンド形態でボーカルだけが歌う楽曲」が存在していたり、
近年配信されたゲームの8beat Storyではパンク、メタル専門のフリーペーパーとして有名な激ロックにインタビューされたユニットが存在したりと
こう言った状況が続いており、
その中で、一番「パンクス、メタル等のジャンルを歌わせやすいアイマス」がシンデレラガールズだったのではないでしょうか?
実際、星輝子というメタル系アイドルが存在しているのもシンデレラガールズです。
そういう前例も、この曲調が採用される下地にはなっていたのではないでしょうか。
そして、この二つの面が重なった事で、
アイドルらしさのない、エグエグなギターリフとブリブリとしたベースとバチバチとしたドラムにエレクトロを組み合わせ、強気の歌詞で綴られた「Trust Me」と言う曲が生まれたのではないでしょうか?
最後に。
私が何故この曲を選んだのか。
それはこの曲が私にとってかなり感慨深い、思い入れの強い一曲になったからです。
私は、この「アイドルマスターシンデレラガールズ」の中で鷹富士茄子の担当Pを名乗っており、そんな茄子さんの「初めての曲」の一曲が、この「Trust Me」となったからです。
加えて、私はアイマスをやる以前から激しい音楽が好きで、洋楽邦楽問わず様々なパンク、ハードコア、メタル、と言ったジャンルを聴いて来ました。
つまり、「自分の好きなアイドルが自分の好きなジャンルを歌う」という一人のファンとしては夢のような一曲が出たのです。
皆さんも、Trust Meをきっかけに「アイドルマスターシンデレラガールズ」や「音楽」に興味を持って貰えたら、どっちものファンとして嬉しい限りです。