プールサイドヒーローズ/藍坊主
俺には幼馴染がいた。
近所に住んでいて、同じ班として一緒に登校していた子で、そいつはいつでも俺の前にいて、手を引いて歩くような男だった。
運動神経が良くて、ゲームも強い。普段は誰よりもおちゃらけているけど、妙なリーダーシップみたいな物があって、アイツはいつだってクラスの中心にいた。
俺はそいつの後ろを良く歩いてた。
特に泳ぐのがめっちゃ早くて、クラスリレーのアンカーになった時は隣のクラスの奴を突き放して優勝を決めた時は誰よりも輝いていた。
中学も高校も一緒でアイツは水泳部に入った。
そしたらメキメキと実力を発揮して、全国大会に行くとか、インハイに出るとかそんな話が出るくらいになって...
対して俺は新しく始めたバドミントン部で補欠。
もう一緒に連むとか違うとか思ってたんだけど、
それでもアイツは相変わらず俺と仲良くしてくれた。
部活帰りにカラオケに寄ったり、コンビニで駄弁ったり、ラーメン一緒に食いに行ったり、テスト勉強サボって海見に行ったり、休みが合ったら街に映画見に行ったりと色々した覚えがある。その時も相変わらず、ずっと俺を誘ってさ...そんなアイツから教わったバンドが藍坊主ってバンドでさ。
そもそもロック自体もアイツが先にハマって、アジカンとかBUMPとか色々教えてくれてな...
そんな時に「めっちゃ良い曲みっけたから!!」ってYoutubeのURLをメールで送ってもらったのが最初で...........................
※上記の思い出は全て存在しない記憶である。
そんな存在しない記憶が溢れ出す曲、
それが今回のタイトルに入れた藍坊主の新曲「プールサイドヒーローズ」である
藍坊主は神奈川県小田原市出身のロックバンドで、爽やかで真っ直ぐと心刺すような歌詞を書いてくれる、高校時代から好きなバンドだ。
そんな彼らの近年の作品は特にヤバい。
それを理解する為には前作シングルの「夏の金網」をまず聴いて欲しい。
「なんか全部経験した事あるよね?」
そんなノスタルジーを強く俺は感じた。
特に「吹奏楽が金網から、風に変わるように」と言う歌詞で俺は高校時代にクソ暑かった体育館で部活の練習してて、その休憩中に、ふと遠くから聞こえた吹奏楽部の練習の音を思い出して、膝から崩れた。確かファだった気がする。多分チューバのファだ。
元から歌詞の良さが光るバンドだったが、近年は特にリアリティがより強くなり、それに付随して、どこかノスタルジーやセンチメンタルになるような物が増えた。
そんな彼らの新曲が夏を過ぎて、もう冬の影が見え隠れする2022年10月にリリースされた。
それが「プールサイドヒーローズ」だった。
さて、改めて聴くと、前回以上の生感のある比喩が多様され、それがどこか五感で感じた「記憶」と直結する。
「カレーライスと塩素」とか「パラソルの影」とか「歯型のビート板」とか、視覚や聴覚だけで無く、嗅覚や味覚、体感での思い出も思い出されるフレーズが多様され、
その記憶を司る歌詞の中に「本来存在していない“君”」が見え隠れする。
結果、俺は存在しない「君」を幻視し、最終的に「存在しない記憶」が俺の中に溢れ出した。
総評
「共感できる」みたいな曲評をたまに見かけるが、そんな曲の代表でも、会いたくて震える奴なんて誰もいなかったはず。いたらヤバすぎる。
それに対してこの曲では、塩素の匂いとカレーライスの匂いを一緒に嗅いだ事があるし、歯型のついたビート板を見た事あるし、破れた金網に垂れた水泳帽も見た事がある。
そして、その記憶の先にいる「ヒーローみたいな君」がいる。
存在しないはずなのに、それを知っている。
「嘘じゃない!!俺はアイツを知っている!!!名前!?名前は...名前は....」
そう脳内で記憶とバトルした俺は、来年の夏の終わりくらいに再度、「プールサイドヒーローズ」を聴こう思った。
最後に一言...僕は狂ってなどいない!!!